メトロより愛をこめて

散れば咲き散れば咲きして百日紅

心象風景

 砂浜にわたしは立っていて、目の前は遮るものがない一面の海。砂浜は白く細かく、シルクを踏んでいるような気分である。糸のようでしかない微かな波が立っている。音はしない。もしかすると湖なのかもしれない。しかし、わたしはそれがどちらでも、どうでもいい気分のようだ。潮の香りも感じられない。その代わりに、気だるげでもはや官能的ともいえる空気が立ち込めているので、今が春の夜であることがわかる。

裸足で丈の長いワンピースを着ているようであるわたしは、その大きな水の中にまっすぐ進む。正面には月。痛いほどの白さと冷たさに目を覆いたくなる満月の夜らしい。その時々で、蜂蜜じみた、今にも溶け落ちそうな色であったりもする。静かな海面に丸ごと月が映るから、月がふたつある。

わたしが歩いていくのに合わせて、水がかき混ぜられる音がする。ごく静かで、粘り気のある液体の入った壜を逆さにするような、その程度の音にとどまる。波紋が立ち、贋作の月が砕ける。暗くてわからなかったが、相当な透明度の海であるようだ。膝下まで浸かった足のペディキュアが、ゆらぎを伴って揃いで10粒見える。 そのヒステリックな赤は、この夜には狂気的に不釣り合いで恐ろしい。濡れた肌が月の光で冴えて見える。腰のあたりの深さまで来て、白いワンピースの裾はほとんど海月かと思われた。その間中、なぜかわたしはひとが恋しい気持ちでいっぱいでいる。

 

  眠れないときに想像する風景ってありませんか?後半は夢と区別がつかないようなレベルの。最近はずっとこれ。どういう心理でこういう想像?夢?を見るのかな。夢占いの本を引くのは不適切だろうか……

 これじゃなければ御堂の中にひとり立ってることもある。白檀か沈香(わたしのお気に入りのお香)が、誰の手によってか焚いてあって、そこでは必ず許しを乞いたい気持ちで苦しい。わかる人はわかるけど、BGM:法界の火って感じ。法界の火、すごく好きなんだよね。よかったら聴いてみて、おやすみなさい。