メトロより愛をこめて

散れば咲き散れば咲きして百日紅

アムリタ

 アムリタ。蜜雨。甘露。くちびるを湿らせるだけで叶う不老不死の蜜……インド神話のものらしい。「アムリタ」、このとおりに呟くと、たちどころに幸せが充ちてくる言い伝えだった。まるで不老不死が、幸せの最上級のような言い方をする。健康寿命が爆発的に伸びて、人生100年時代なんて言われちゃって。わたし、幕末の男性の平均身長より背が高い。だいたいの偉い人を上からピンヒールで踏めちゃう。

生きたくないなあ。不老は……ほしいけど、絶対に死にたい。平均寿命延長の副作用かなあ。

 

 人生100年かあ、そうだなあ、結婚はしたくない。愛は絶対に終わるので。子供もほしくない。わたしは母親になんかなる資格がないので。実は未来は真っ暗なんだよなあ。終わらない愛があるとして、母親に資格が要らないとして(恐ろしい仮定)、そうしたら結婚したいよ。ずーっと将来の夢は、お嫁さんだった。だから、安楽死が選べるのなら、今選ぶなあ。くちびるを湿らせるだけで不老不死が叶う蜜をアムリタというのなら、くちびるを湿らせるだけで眠るような死が叶う蜜はなんていうんですか?シアン化カリウムですか?ロマンがないね。わたしはアムリタの方をシアン化カリウムって呼びたいけどね。死ねなくなる毒。シアン化カリウムをアムリタ。幸せになれる甘露。

 

  わたしも大学が4年目になる。ずいぶん人が変わった。まず人を信じなくなった。弱さを補うための武装として。あとは簡単に人を切り捨てるようになった。少しはよかった、お人好しがすぎたから。激しい容姿コンプレックスから離脱した。自己評価偏差値52。前の記事見て、40前半って言ってるから。友人各位が根気よく褒めて育ててくれたから…… 変化を恐れなくなった。これが一番大きい。噛み締めて嬉しいことだ。そのおかげでぽいぽい顔にメスを入れそうだけど……

 

 

 

もしアムリタの入った壜が手に入ったら、わたしは中身を排水溝に流してしまって、「アムリタ、アムリタ」って呟きつづける。古代インド人からしたら、狂気的だろうね。甘露。蜜雨。アムリタ。